バービーが教えてくれる!?日常のなんでもない写真でフォロワーを増やす方法


女の子だったらきっと誰もが大好きな(だったはずの)バービー人形。あの日、憧れを抱いた雰囲気そのままに、ドールの世界でいまも大活躍する彼女のきらびやかな日常を綴ったインスタグラムが、いまとっても人気です。公式アカウント(@barbie)では、馴染みのある顔ぶれとともに超絶オシャレなファッションリーダーぶりを発揮していて、大人も子供も楽しめる充実した内容になっています。

ドールの世界から抜け出たバービーが作り出す、新しいリアリティ

バービーにはもう一つの公式アカウント(@barbiestyle)があって、そちらは従来のバービーのイメージとは一線を画しています。静止したドールの世界を飛び出し、リアルクローズを身にまとって、あたかも現実世界のファッショニスタかのように振る舞うバービーたち。ファッション感度の高さはかなりのもので、まるでファッション雑誌のページをめくっているかのような洗練された写真の数々に、きっと誰もがうっとりしてしまいます。また「たくさんの人にインスピレーションを(Designed to Inspire)」と謳っているだけあって、トレンドアイテムを上手くコーディネートした最旬のルックスはスナップだけにとどまりません。いまインスタグラムを利用するオシャレ女子の間で人気の平置きコーデなども紹介されていたりして、季節のコーデプランの参考にそのまま使えてしまえそうなくらいスタイリングがイメージしやすいのも特徴です。

インスタグラムの高度な編集機能と拡散力を味方につけ、バービーがますますオシャレに、そしてゴージャスに生まれ変わり、いまやフォロワー数が120万人を超えるほどの人気ぶりなのです。エレガントな魅力で、もともと大人のファンも多いバービーですが、もはや単なるドールやおもちゃとしてはカテゴライズできない、新しい世界観がそこには構築されつつあるように思えます。

 

「#本物の生活」とは何かを問いかけるSocality Barbie

バービーが盛り上がりを見せているのは公式アカウントだけではなく、なかでもとりわけ異彩を放っているのが、Socality Barbie(@socalitybarbie)。やはりドールの世界を抜け出て、太平洋岸北西部の雄大な自然を背景に、自由奔放に生きるバービーの姿が好評を博し、公式アカウントを上回る130万人ものフォロワーを集め話題となっています。このアカウントを運営しているのは、アメリカ合衆国はオレゴン州、ポートランドを拠点に活動する写真家。そのオシャレな写真もさることながら、気の利いたコメントが多くの支持者を集めている理由のようです。

ルールその1。
コーヒーの写真は必ず投稿すること。
じゃなきゃ飲まなかったのと同じ。


これは、ラテアートを施したカプチーノとともにバービーを撮影した写真に添えられたSocality Barbieのキャプションです。多くの人にとって、一日のなかで最も絵になる瞬間が、カフェでコーヒーを飲むひとときだったりしますが、インスタグラムでそんな風景がよく投稿されていることの理由について、Socality Barbieは「文化的な暮らしをそこに垣間みせたいんじゃないかしら」と説明します。

彼女は、だれもがフィクションだと承知しているドールの世界を「#本物の生活」(#Authentic Living)と銘打つことで、インスタグラム上をにぎわせているレディメイドなリアリティをちょっぴり辛口に戯画化してみせます。確かに、カフェで撮られた写真というのは、上品で洗練された生活を担保し、豊かなライフスタイルの痕跡を作り出してくれます。それはまるで、人にはあまり知られたくない、写真うつりの良くない日常から身をかくすための避難所のように思えなくもありません。

空虚な写真ならもう要らない

インスタグラムでは、ごくたまにおとずれる劇的な場面が念入りに切り取られ、オシャレに加工される。猥雑なものには霞がかけられ、生活感のある部分はすっかりフレームアウトしていて、そこにあるのは確かに現実に起きたことではあるのだけれど、どこか空虚な感じがしないでもない。象徴的なのが、まれに海外に出かけた「ハレの日」の写真だけを投稿する「世界旅行者(The World Traveler)」と呼ばれる人たち。パリ左岸にあるカフェや常夏のビーチでの自撮り写真は、見ていてイヤな気はしないけれど、もっともっとユニークにちがいない、日常的なことがらにともなう心の動きとか、感情の揺れとか、そういうところはあまり見せてくれない。

とある芸人さんがある日のテレビでカメラ女子のことを「彼女らが撮るのは空か、猫か、犬か、オシャレなカフェのカプチーノぐらい」と皮肉をこめて語り、「あなたの大切なものから撮って下さい」と結んだのがとても印象的でした。また、ありきたりの写真を撮ろうとすると、シャッターが切れなくなる、そんなスマートフォンケースもあるのだそうです。写真共有サイトのGPSメタデータを利用して、およそ35平方メートルを対象に、どのくらいの人が同じ場所で撮影したかをスキャン。あまりに多くのジオタグが検出されると、シャッターが自動的にブロックされる仕組みです。デジタルイメージの分野では、どうやらオリジナリティや自分らしさってところに世間の焦点が集まってきている感じがしますね。

インスタグラムって、何よりオシャレであることが暗黙の最優先ルールみたいになっているところがあります。でもオシャレなだけのものなら他にも知っているし、カプチーノなら私だって月に何度か飲んでいる。他人の日常をのぞきこみたいというのではないけれど、インスタグラムの楽しさは、とっても小さいパーソナルな事象が、人から人へとシェアされて、やがて地球規模の現象になってしまうかもしれないってところ。遠くで起きた出来事の振動がそのまま伝わってくるような、そんな臨場感がインスタグラムにはあるのです。この星のどこかで誰かが撮った一枚の写真が世界の「今日」を作る、なんてことも本当に起こりうるのです。

 

インスタグラムが表現する「ハイパーリアル」な世界

 

日常を切り取った写真がたくさんの人にシェアされるなんて、そんな簡単なことではありません。ですがそのためのヒントも、バービーのインスタグラムのなかにあるように思います。バービーのインスタグラムを見ていて思い出すのが、現実を模倣してまやかしのリアリティを作り出す「ハイパーリアルアート」です。不思議で心地よい夢を見ている感じとでも例えたらよいでしょうか、ニセモノの人間であるバービーが現実の世界に連れ出され、本物らしい虚構の世界が映し出されることで、これまでなかった新しい感覚を生み出すことに成功しています。バービーのインスタグラムが多くの人々を惹きつけてやまないのは、それが単なるフィクションではなくて、リアリティとは?本物の生活とは?と私たちに問いかける、デジタル時代のアート作品だからに他なりません。

インスタグラムを使ったアート作品はドールを使ったものに限られません。例えば、毎日のコーデスナップを観光名所に合成して世界中を旅するのも素敵だし、アプリを使ってハイパーリアルなコラージュを楽しんでもいい。日常の1コマをアートに格上げする表現方法はいくらもあって、インスタグラムは人の数だけの可能性に満ちています。インスタグラムは誰にでも手軽に始められるアートのためのツールだと言ってのけても、それはきっと間違いじゃないのです。

参照元:Barbie(@barbie)
    Barbie(@barbiestyle)
    Socality Barbie(@socalitybarbie)
    WIRED.jp
    SPRUNDGE
    TechCrunch
    Philipp Schmitt